ブランドン・コールマン『セルフ・トート』

完全に“ジャケ買い”したアルバムです。ブランドン・コールマン『セルフ・トート』。
アナログシンセに囲まれて、素敵な笑顔で弾いている……このジャケットだけで買おうと思いました。

実際に聴いてみて……ジャズというのかな、ソウルというのかな、いろいろ詰まった8曲入りのアルバムなのですが、ジャンル的には自分が今まで手を出さなかったジャンルなのですが、とてもいいです!
午前というか、朝聴いて楽しくなる音楽。
もちろん夜でもいいんだけど。

YouTubeとかで彼が演奏している映像とかも見たのですが、素敵なキーボーディストです。

エイモス・チュツオーラ『薬草まじない』(岩波文庫)読んでる途中

まだ今読みかけの本なのですが、めちゃくちゃ面白いです、このエイモス・チュツオーラ『薬草まじない』(土屋哲訳/岩波文庫)。
タイトルから来るフィーリングで手に取った本です。
僕にとっての初めてのアフリカ文学なのですが、ちょっとハマりそうです。

ロッキータウンという町に住む主人公の冒険譚なのですが、まずこの町の設定が驚きです。
ひょっとしたら僕がアフリカの国々の風習に詳しくなくて、そこから来るエキゾチシズムなのかもしれませんが、……ここは一体どういう町なのだろうと引き込まれていきます。
僕が一気に引きずり込まれたのは、次の引用部分の最後の一文。

さてこのロッキータウンに住む人間は、大人も子どもも、それぞれが自分の崇拝する神さまとか、偶像、神像をもっていた。したがって数えきれないほどたくさんのお社が、川の土手に建てられ、ときにこの土手は、〈神さまと偶像、神像の寺院〉と呼ばれることもあった。かりにもこの町の住民で、尊崇する神さまや偶像、神像をもっていない者がいれば、その者は子どもや大人たちから忌避されたばかりか、不信心者とみられ、だれからも相手にされなかった。(岩波文庫、8頁)

何かを尊崇するのが当たり前、そうでない者は相手にされない……というのは、何でもかんでも冷笑したりして醒めてしまっている僕の周辺の環境とは真逆で、それでいて呪術的なものがそれなりに信憑性の高い僕の周辺の環境と似ている(特にその呪術的なものへの信憑が個々人によってそれぞれあるという点も興味深い)。

この小説の主人公「わたし」は、前世において〈生まれながらにして死んでいる赤ん坊〉族の一員であったらしいのですが、それが理由に自分の妻に子どもが授からないと考えており、この状況を打破するために〈さい果ての町〉に住む全知全能の〈女薬草まじない師〉に会いに冒険の旅に出る、というのが物語の軸になっています。
「クエストもの」というジャンルがあるのかどうか知りませんが、RPGみたいですよね。
だけど、冒険の動機が「子宝に恵まれないから」というのが、少しシビアですね。
小説にはこんな記述があります。

(略)というのも、事実、子どもをひとりも授からない女や男は、決して友だちや近所の人たちから尊敬や敬意を払われないからだ。しかもそんな男や女は、一生涯悲しい人生を送らなければならないことになるのだ。いかに貧しくとも、子宝に恵まれさえすれば、幸福に暮らせるのだ。
 このことは、わたしの町ではきわめて重大な慣習なのだ。「母は黄金。父は子どもの姿見だ」という諺はわたしたちみんなの生活訓になっていた。(22頁)

子どもがいなきゃダメだという考え方は、主人公個人のものではなく、町全体、共同体全体に共有されている考え方なのですね。
一応この小説は「幻想小説」らしいのですが、アフリカの地域ではそのような考え方が根強いということなのでしょうか。
私たちのいる現代の社会では、上述のような考え方が表立ってまかり通っているということはないのかもしれませんが、それでも若い夫婦とかだと「そろそろ子どもが欲しい頃だわよねぇ」とか周囲から言われたり、「あそこの夫婦は子どもがいないんだ(子どもを作らないんだ)」ということが殊更に意識されたりということはあるので、私たちにとっても決して無縁な考え方ではないですよね……。
そういう考え方が、ある人にとってはプレッシャーになるのにね……。

で、この主人公、命懸けで〈女薬草まじない師〉を探しに行きます。
周囲の人間(妻や父母、義理の父母ら)は泣いて彼を止めるのですが、彼の決意は固いのです。

その冒険のさなか、彼はある強敵に出会います。その強敵の名前(?)を見て、僕は度肝を抜かれました!

ジャングルのアブノーマルな蹲踞の姿勢の男(42頁ほか)

何ですか!「アブノーマルな蹲踞」って。こんな言葉今まで聞いたことがない。イメージできない!
訳者の訳し方がいいのですかね。いや、オリジナルがいいのかな。
この敵の名前だけでなく、この小説にはこちらの想像力を刺激する様々なフレーズに満ちています。

ということで、まだ読みかけの本ではあるのですが、どんどん読み進めていきたい。



ところでちなみに、三浦綾子『氷点』上下巻に引き続き、『続氷点』上下巻も読みました。
(『氷点』については、http://d.hatena.ne.jp/toyonaga_ma/20160228/1456663275
個人的に辻口徹に思い入れをしながら読んでいたので、あんな結末になって悲しかったです。
そういう悲しい気持ちだったからこそ、今読んでいる『薬草まじない』の痛快さにハマっているのかもしれません。

薬草まじない (岩波文庫)

薬草まじない (岩波文庫)