伊坂幸太郎『ガソリン生活』(朝日文庫)読了

外国文学を読んだ後、今度は日本の作家の小説を読もうと思い、書店で手にしたのが、伊坂幸太郎『ガソリン生活』です。
僕は朝日文庫版(2016年刊行)を購入して読みましたが、単行本は2013年に朝日新聞出版から出ているのですね。

伊坂作品は、これまでにもいろいろ読んではいるし、卒論で取り上げていた学生も過去にはいたので、多少は馴染みのある作家さんです。
いつも、いっぱい伏線を張って、最終的に全部回収していくし(その回収の仕方が読んでいて爽快ですよね!)、主人公はたいがい〝偶然にして〟何かの事件に巻き込まれていき、その主人公の些細な出来事が結果的に大きな出来事の展開を生む、というところが伊坂作品の面白さだと思います。
あとそれと、スターシステムじゃないけれど、他作品に登場する個性的な登場人物が別の作品にも登場する、とか。
そして、一言で成り立つような〝正義〟というものは描かれなくて、人間関係やその場の状況で〝正義〟の質が規定されるというような物語が多い気がします。
……もっとも伊坂作品の全てを読んでいるわけではないので、ここに書いたのはあくまでも僕が読んだ範囲での伊坂作品の特徴だとは思いますが。

さて、この『ガソリン生活』の主人公というか語り手の「僕」は、緑色のデミオ。……自動車です。
最近よく〝擬人化〟というのが流行っていますが、刀が美少年になったり、戦艦が美少女になったりというのではなく、見た目やアイデンティティは自動車で、ただ人間の言葉が分かるし、他の車との会話もできる、という形での擬人化がこの作品にはあります。
この語り手の設定は、面白いですね。
「僕」は持ち主である望月一家(特に長男の良夫と次男の亨)が車内で話す内容に聴き入り、事件に巻き込まれようとする彼らを何とかしたいと思いつつも、その事件そのものには主体的に関与できない。
また、車内での会話については知ることができるが、自分から離れた場所で展開している出来事については直接知ることができない、そんなポジションから望月一家の関わる事件について語る。
……そんな車ならではの立ち位置が、この語り手の性格を規定しているわけです。
そのような〝語り〟の側面からみても、この小説は面白いですね。

あと、自動車同士が仲が良いのが微笑ましくて面白い。
彼らは通りすがりの自動車や駐車場で隣り合った自動車と情報交換をしたりするのですが、基本的にピースフル。
1台1台個性派あるのですが、基本的にみんな好奇心旺盛で、自慢し合ったり、冗談を言い合ったり、助け合ったり励まし合ったり、同情し合ったりするところがある。
ある意味、『きかんしゃトーマス』みたいなところがある。
シリーズ化するんだったら、是非読みたいなあと思う、小説でした。

もちろん、伊坂作品によく見られる、人間社会に対する毒とか、人間の心の中に潜む悪意みたいなものも描いていて、そういうところも読み手をグイグイ引っ張る力になっています。
それからいつものことですが、最後に「参考文献」も載っていて、こういう間テクスト性も面白い。

読んで正解だったなあと思いました。

だけど、もっと有名な伊坂作品とか、読んでないものもたくさんあるので、そういうのも読みたいとは思う。

もうすぐ春休みも終わってしまいますが、新学期が始まる前に、あと少し小説を読みたい。
今度は外国文学に行こうかな、と思っています。

ガソリン生活 (朝日文庫)

ガソリン生活 (朝日文庫)