今月の読書(2017年1月)

久々のブログ更新です。せっかく開設しているのだから、たまには使わなきゃ。

今月(2017年1月)も今日で終わりなのですが、今月はいつになくたくさんの小説が読めました。
普段は、研究や授業に関連する理論書とか評論とかを読むことは多いのですが、なかなか小説を読んだりはしませんでした。
でも、今月はなんかスイッチが入ったんですよね。
読んだのは、以下の5本。

村上春樹色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年
これは、単行本が刊行されたときから気にはなっていたけど、文庫になってから読もうと思っていて、ようやく着手したというもの。
謎を謎としてそのままにしておく、というところは面白いんだけど(灰田青年のこと)、いつもの村上春樹の小説っぽいな(夢の中での出来事とか、ご褒美としてのセックスとか)、という印象はやはり持ちます。
これで論文を書きたいという気持ちには、僕の場合はなりませんでした。

伊坂幸太郎『オー!ファーザー!』
今年度の授業「日本文学史(現代)」で、家族というテーマで『重力ピエロ』を取り上げました。
来年度は『オー!ファーザー!』も取り上げようと思い、読んだという次第です。
4人も父親がいる男子高校生の物語だけど、みんな仲良くていいですね。
『重力ピエロ』同様、「遺伝子なんて関係ない!」という感じなのだけど、『重力ピエロ』のような「父殺し」はないので、明るい。
楽しく読みました。

伊坂幸太郎『チルドレン』連作短編集。陣内という個性の強い人間とその周囲の人々の物語(陣内自身は語り手にはならない)。
これも読んでいて〈父子関係〉がテーマなのかな、と思ったりしました。
父子関係といえば、重松清の小説が有名だけど。
伊坂幸太郎作品における父親像について……という文章が書けそう(もうそういう論文あるかな)。

星野智幸「在日ヲロシア人の悲劇」
現代の政治小説、という評判があったので読んでみました。
後味……あんまりよくないですね。
でも、この後味の悪さというのは、私たちが生きている現実の世界の(特に政治に対する)「嫌な感じ」が根本にあるからかもしれない。
そういう意味で、この小説は現実を貫いているとも言えるから、だからこそ「後味悪い」というのはこの小説に対する褒め言葉になるのかな。
それにしても、この小説も〈父子関係〉がテーマになっています。
別に意識したわけではないのだけれど、何かそういう作品を招き寄せているのだろうか。


森見登美彦『夜行』
面白かった。読書の楽しさというものを感じました。
森見さんの作品は以前から、現実と非現実との間の薄い皮膜がすぐ破れてしまいそうなものが多かったけれど、これもそうですね。
夜の世界に飲み込まれる、というのがいい。
主人公の「私」が最後にたどり着いた

彼女には彼女の歳月があり、私には私の歳月があった。(p.252)

は、僕にとってすごく落ち着くものであり、僕の現実認識にも重なるものなので、「うんうん」と思えました。
四畳半神話大系』でもそうでしたけどね。
この小説の帯に「代表作すべてのエッセンスを昇華させた」とあるのだけど、なるほどと思いましたね。
自意識過剰な語彙力豊富な語り手ではないので、そういうのが苦手な読者でも読みやすそう。

来月もたくさん小説を読みたいです。