アニメ『リトルバスターズ!』に胸を打たれて

録りためたアニメを見ていて、『リトルバスターズ!』に涙した。
それは第14話「だからぼくは君に手をのばす」なんだけど。


西園美魚(みお)は、クラスの中でも誰にも気を留めてもらえない、存在感の希薄な女の子だった。
そんな彼女のことを主人公の直枝理樹は、気にかけていた。

美魚は子どもの頃、鏡に映った自分が自分自身に話しかけてくるという経験をし、その子を遊び相手とした。
その子は「美鳥(みどり)」と名乗り、西園美魚のことを「お姉ちゃん」と呼んだ。
美鳥との遊びは、西園美魚にとってとても充実した時間だった。
しかし美鳥の姿は美魚にしか見えなかった。
不可視な美鳥に向かって話しかける美魚の姿を目撃した彼女の母親は、美魚を医者に連れて行く。
医者は治療(という名の暴力だと僕は思うが!)を施して、美魚の中の美鳥を抑圧し、西園美魚も美鳥のことを忘れていった。
しかし、西園美魚はやがて、重大なことに気付く。
美鳥を抑圧して以降、自分の影がなくなってしまったのだ。
それ以来、西園美魚は日傘を手放せなくなってしまった。……影がないのがばれてしまうからだ。

西園美魚にとって美鳥は、自分にはない性格を持っていた。
美魚は、自分ではなく美鳥がこの世界で生きていくべきだと感じていた。
そして西園美魚と美鳥は入れ替わってしまう(美鳥が美魚の乗っ取りに成功したとでもいうべきか)。
美鳥は美魚とは違い、とても明るくて社交的な性格だった。
クラスのみんなは、美魚のことをすっかり忘れ、美鳥のことを「西園美魚」だと思うようになった。

しかし、理樹だけは、西園美魚のことを忘れずにいた。
美鳥は、理樹もいずれ美魚のことを忘れるだろう、と理樹に言い、理樹を揺さぶった。
理樹は、自分のなかにある美魚の思い出を喚起しようとするが、その思い出が、実際にあった事実に基づくのか自分の想像が作り出したものなのか、解らなくなってしまう。
理樹は何とかして、元の西園美魚を取り戻したいと願う。

理樹は海岸(この世界と別の世界との臨界みたいなところ)で美魚と出会う。
理樹は美魚を連れもどそうとするが、美魚はそれを拒む。彼女は孤独を選んだのだ。
しかし、かつて自分も孤独であったことを、理樹は語る。
孤独な中で彼は仲間たち(リトルバスターズの面々)と出会い、心を開いていったのだった。
だから理樹は、今度は、孤独な美魚に手をのばすのだった。
(思い出して、胸が苦しくなってきた)
そして(いろいろ、本当にいろいろあって……)、美魚と美鳥は融合し、美魚は戻って来たのだった。


……こんなふうに要約すると、村上春樹河合隼雄的な、分身と自己喪失の物語の焼き直しだ、って思うかもしれない。
でも、やっぱり違うと僕は思う。

何より(これが一番の理由だが)直枝理樹役のほっちゃん堀江由衣さん)の演技力だよ!
まず、それあっての、僕の涙ですよ。

また、村上春樹作品の場合は、主人公が影を失って自己を喪失して、女の子との性的な関係によって喪失感を埋める……みたいな自己愛的なものが全開って感じですよね。
でも『リトバス』の直枝理樹の場合、とにかく周りの人々のことを大切に思うというのが根本にあって、(仮に周囲との関係が良好であることが理樹本人にとっての自己満足に繋がるものであったとしても)周囲の人々の幸せを考えるという点で一貫しているところに、(非現実的かもしれないが)理樹の魅力がある。
そうした理樹の思いに、中年男子たる僕も、胸を打たれてしまうのです。
特に、消えて行く美鳥に向かって、(美魚のことを忘れないようにと思ったように)美鳥のことも忘れないってことを言った理樹の言葉に、めちゃくちゃ感動した。
そんな理樹のことを僕は忘れないよ、って思ったね。

というわけで、第14回は個人的に、めちゃくちゃ感動の回でした。


続く、第15回「ムヒョッス、最高だぜ」も、ある意味、胸を打たれた。
来ヶ谷さんの陰謀で女子寮におびき寄せられた理樹は、女の子たちに「おもちゃ」にされる。
女子高生の制服を着させられる理樹。
それに萌えっとなって写真を撮る西園さん。
その写真を送信してもらい、興奮する棗恭介。
僕はそんな恭介に(ていうか緑川光さんに?)胸を打たれた。